スプリング8運営財団 文科省OB企業丸抱え 保守管理発注 年十数億円
兵庫県にある大型放射光施設「スプリング8」を運営する財団法人「高輝度光科学研究センター」が、所管官庁の文部科学省OBが社長を務める人材派遣会社と、同社の年間売上の約8割にあたる十数億円に上る取引を続けていたことが5日、関係者への取材で分かった。平成20年度以前は多くが随意契約で、委託費は独立行政法人を経由した文科省の交付金などから支出されており、実質上、財団が公金を使って天下り先企業を「丸抱え」にしていた実態が明らかになった。
公益法人は、法人関係者の有利になる取引が禁じられているが、社長の文科省OBは財団の元理事で関係が深く、こうした取引が国の指導監督基準などに抵触する恐れもある。
問題の人材派遣会社は「スプリングエイトサービス」(兵庫県上郡町)。スプリング8を動かす加速器の運転や基幹設備の保守管理などを主な業務とし、財団から運営の一部を受託、人材を派遣している。
民間信用調査会社によると、同社はスプリング8の運用が始まる1年半前の8年4月に設立され、資本金は5200万円。19年3月期の売上は約14億9千万円で、約8割を財団との取引が占めていた。従業員は約220人で、財団との資本関係はない
社長は、現在は文科省となった旧科学技術庁の原子力安全局次長などを歴任し、退官後に財団へ天下り。20年1月に財団を退職した後、社長に就任した。
財団側の説明によると、財団は毎年4月に委託事業を同社に発注。業務の多くは20年度まで随意契約だった。21年度から全業務を一般競争入札に切り替えて募集したが、放射線に関する資格などを考慮するため入札参加企業は限られ、従来の業務は同社がほぼ独占的に受託しているという。
文科省によると、財団の年間収入は19年度決算ベースで約95億3千万円。国からの直接的な補助金は14・5%の約13億8千万円だが、収入の8割は独立行政法人「理化学研究所」からの委託費で、理研へも毎年約1千億円の補助金が交付されており、財団の運営には実質上、巨額の公金が使われている。
公益法人が天下り企業を丸抱えにした今回の構図は、天下り廃止を目指す政府の方針と大きく異なっており、財団の関係者からも「官僚OBの利権を守るための癒着だ」との批判が出ている。
財団の新名信康・審議役は「世界最先端の科学を支えるには、高度な技術とノウハウが必要。周辺には要件を満たす企業が少なく、結果として取引が偏ってしまった」と説明。一方、スプリングエイトサービスの担当者は産経新聞の取材に対し「民間企業なので個別の取引などについてお答えできない」としている。
周約1・4キロのリングの中で電子を光速に近い速度で回し、強力なエックス線などの放射光で物質を照らして微量な物質の構造や性質を調べる。邪馬台国論争を解く鍵とされる三角縁神獣鏡の解析にも使われ、銅の成分が当時の中国鏡とほぼ同一と判明。和歌山毒物カレー事件でもヒ素の異同識別に利用された。