「欧州景気、回復に地域差」 ウェーバー独連銀総裁インタビュー
ウェーバー独連銀総裁の略歴
アクセル・ウェーバー氏 経済学の教授としてフランクフルトの大学などで勤務した後、02~04年に独政府の経済顧問に就く。04年から現職。欧州中央銀行(ECB)の次期総裁の有力候補とされる。53歳。
――ユーロ圏の景気の先行きをどう見るか
「(域内最大の経済力を持つ)ドイツでは2010年1~3月期(の成長力)は弱いが、これは予想通り。厳冬で1~2月は建設業がほぼ稼働停止だった。その反動で第2~第3四半期は強めの成長となる。雇用は金融危機後も失速せず、今後の悪化も非常にゆっくりとしたペースにとどまる。12月時点では10年の成長率を年1.6%と予測した。11年も回復が続くだろう。景気が回復過程にあるのは明確で、その基調は変わっていない」
「これまでに景気や市場機能は回復してきたが、幸福感はない。ドイツの09年の成長率はマイナス5%で戦後最悪。危機前に年1.5%だった潜在成長率は0.75%に半減した。ユーロ圏全体でも10年の成長ペースはゆるやかで、国ごとにばらつきのあるまだら模様の回復となる」
――それでも金融政策の「出口戦略」は続けるのか。ギリシャ問題の影響はないのか
「金融政策は域内全体の物価安定が目的。現時点では物価上昇のリスクはなく、政策金利の水準は適切だ。ただ金融市場の(機能が)回復しつつあるため、(金融危機対策として導入した)資金供給のための『異例の措置』を続けることは妥当とは思えない」
「長めの資金供給については段階撤廃に踏み切った。(通常の)公開市場操作(オペ)などでは固定金利で上限を設けず第3四半期まで供給を続ける。これは厚めの資金供給を当面、実施することを意味する。だから供給手段の撤廃は(利上げなどの)金融政策の先行きを示唆しない」
「カバードボンド(金融債)の購入措置は市場安定に役立った。購入枠の3分の2が使われ、今夏で役割を終える。購入債券は満期まで保有する」
――ユーロ圏は財政危機に直面するギリシャを緊急時に支援する枠組みで合意した。ギリシャの状況をどう見るか
「すでに3月上旬にギリシャ政府は歓迎すべき財政再建策を提示しており、一歩前進した。これで(財政赤字を国内総生産=GDP=比で3%以内に収めるという)EUの財政協定に基づき赤字を減らす意思を示した。一連の措置を金融市場は評価し、調達コストも低下するだろう。ただ即効性があるとは思わない。失った信認はゆっくりとしか回復しない」
――市場からの資金調達は難しいのか
「現状でもギリシャの調達条件は許容範囲で市場から資金を調達できる状況にあると思っている。現時点での10年債の発行条件は通貨統合直後の状況と大差ない。調達条件の改善はギリシャ政府による自力の財政再建で達成されるべきだ。(GDP比で)約13%に達する赤字幅は財政協定に違反し、減らす必要がある」
――ギリシャ以外も財政が悪化している
「大半のユーロ導入国が財政協定に違反しており、全力で財政再建に取り組むことが不可避。かつて赤字幅が4%だったドイツは(増税などで)金融危機前に財政均衡を実現したが、09年の大規模な景気対策で再び巨額赤字に転落した。赤字幅は3.3%にとどまるが(それでも財政の改善がいる)」
「ドイツは11年に財政再建に着手し、13年に赤字を3%未満にする段取りとなっている。だが(計画の)前倒しは可能。12年に(3%未満という)目標を達成し、その後、遅滞なく均衡財政に到達するのが望ましい」
「ドイツの財政再建は(増税などの)増収策ではなく、歳出抑制で実現すべきだ。経済情勢と5月に予定する税収見積もりを考慮すれば(税収の目減りが鮮明で連立与党が公約する)減税の余地はほとんどない」
――通貨統合前の1998年に独連銀は財政赤字が通貨ユーロの信認を揺るがすリスクがあると指摘した。過度な赤字を防ぐ仕組み作りは必要か
「(経済統計を粉飾していたギリシャを踏まえ)すべての赤字要素を網羅した明確な統計処理がいる。さらに(毎年の財政赤字額だけでなく)累積した政府債務残高を注視する。残高を減らさないと財政が再建できたとは言えない。だから債務残高が多い国こそ早期の財政再建がいる。好況時には財政黒字にし、健全財政の国だけが危機局面に財政出動できるようにすればいい」
「いまユーロ圏には財政健全化に向けた政治的な意思があり、その意欲こそが重要。(危機に陥った国を)支援する(欧州版の国際通貨基金など)常設機関作りを協議するのは無意味だ」
――金融政策を一元化したのに財政政策が一本化されていないのがユーロ圏の構造的な弱点との指摘もある。政策協調は必要ないのか
「すでにEUの財政協定に(財政赤字などを制限するという)財政協調の仕組みが盛り込まれている。(EUの)監視機能と(違反した場合の)制裁措置を各国が真剣に受け止めればいい。一方、(内需刺激などでの)経済協調は(大衆迎合的な項目ばかりで合意しがちで)意味がない」
「競争力強化や構造改革、潜在成長率の引き上げなどを話し合うのが筋だ。(EUは新しい成長戦略の)『2020』で長期プランを描いた。少子高齢化で年金や健康保険、介護など社会保障制度をどう見直すかが欧州の議題となる」
――通貨ユーロの信認が揺らいでいないか。将来性をどう見るか。
「(ユーロの)国際的な役割は市場が決めると思っている。(介入などで)人為的に変える事はしない。しかも金融政策では通貨(の為替相場など)の外見的な価値ではなく、域内の物価安定こそが重要だ」
「金融危機のあいだも単一通貨ユーロは安定した通貨であり続けた。こんな例がある。最近、EU加盟国だが独自通貨を維持するデンマークに行った。危機のあいだ中銀は通貨安定のためにユーロ圏よりも高い金利を維持し、為替介入もした。そうしたコストはユーロ圏では生じていない。危機時には特に経済規模の小さなユーロ導入国は恩恵を受ける」
――銀行の自己資本の規制強化はどう進めるか
「主要国では2つの規制策を議論している。一つ目は2009年7月に合意した対策で11年1月に導入されるだろう。複雑な金融商品の損失リスクに備えて厚めの自己資本を求めた。2つ目が09年12月に大枠を示したもので、銀行部門の体質強化を狙ったものだ。この新規制は今年中に(具体策を)詰め、今秋に韓国で開かれる20カ国・地域(G20)の首脳会議で決める段取り。時間があまりないが実現できるだろう。導入時期は景気回復が着実になれば12年となる」
「導入は段階的で経過措置を設ける。景気や金融市場に配慮する。自己資本の質の向上や最低自己資本比率の引き上げに対応するため金融機関は増資などの必要があり、時間がいる」
――ドイツの銀行部門の先行きをどう見るか
「背景には(昨年の)景気後退がある。貸倒引当金の計上額は高い水準で推移する。09~10年にかけて融資で500~750億ユーロ、証券化商品で100~150億ユーロの評価減を見込む。銀行の利益圧迫要因となるが、処理可能な範囲だ」
――南欧諸国に過大な債権を抱えていると指摘する声もある
「ドイツの銀行は特定地域に異常なほど多くの債権を持っているわけではない」
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